効果的な治療法が存在しないとされるアルツハイマー病の治療薬の現状を知りたい。
アルツハイマー病は、シナプスを破壊するアミロイドβが脳に蓄積したために起きると考 えられていました。「アミロイドβ」を破壊することが効果的な治療であり、予防法である と示されてきた「アミロイド仮説」と呼ばれる、この基本概念が今変わろうとしている。 今のアルツハイマー病の治療薬の現状を知ろう。
認知症を食い止めるには
アルツハイマー病の治療薬の現状
米国で、アルツハイマー病が恐れられる理由の1つは、米国人の一般的な死因の上位10位中、アルツハイマー 病には唯一、効果的な治療法が存在しないからです。また、アルツハイマー病は、単なる命取りでは終わらず、 人間らしさを奪い、家族を脅かし、記憶や、考える力、自立した生活を満足に送る能力・・・すべてが失われ、 愛する人や自分の過去もこの世界のことも、自身もわからなくなるからです。
アルツハイマー病は、シナプス(ニューロンとニューロンの接合部分)を破壊する粘着性のプラーク(アルツハ イマー病ではアミロイド班と呼ばれる)が脳に蓄積したために起きると考えられていました。プラークは「アミ ロイドβ」と呼ばれるタンパク質のかけらで出来ています。アミロイドβを破壊することが効果的な治療であり、 予防法であると示されてきました。
1980 年代以来、神経生物学者の多くは、「アミロイド仮説」と呼ばれる、この基本概念を定説としていました。
アルツハイマー病の治療薬
アルツハイマー病の治療薬は、通常はドネペジル(アリセプト)とメマンチン(メマリー)の併用か、いずれか 1 剤で治療されています。
アリセプトは、コリンエステラーゼ阻害薬(アルツハイマー病に処方される、その他のコリンエステラーゼ阻害 剤は、リバスチグミン(イクセロン、リバスタッチ)、ガランタミン(レミニール)。このほか、ヒューペルジン (フペルジン)Aが栄養補助食品として販売されている。)と呼ばれる薬で特定の酵素(コリンエステラーゼ) がアセチルコリン(神経伝達物質と呼ばれる脳内化学物質の一種)を分解しないように作用します。
神経伝達物質は、ニューロンからニューロンへとシグナルを運んでおり、そのシグナルによって、ヒトは考え、 思い出し、感じ、動きます。だから、神経伝達物質は記憶と脳機能全般に重要なのです。 原理は単純で、アルツハイマー病では、神経伝達物質であるアセチルコリンが減少するので、その分解酵素(コ リンエステラーゼ)を阻害すれば、シナプスのアセチルコリン残量が増え、その結果、たとえアルツハイマー病 が脳を破壊しても、シナプスは少々長く機能していられる可能性があるのです。 しかし、ある程度ならこの原理は機能化しますが、重要な注意点があります。
① アセチルコリンの分解を阻止しても、アルツハイマー病の原因や進行そのものには影響がない。
② コリンエステラーゼが阻害されると、脳は、さらにコリンエステラーゼを産出すると、薬の効果が制限され る。
③ コリンエステラーゼ阻害薬にも副作用がある。下痢、嘔気嘔吐、頭痛、関節痛、眠気、食欲創出、心拍定価 等
また、もう 1 剤のメマンチン(メマリー)は、脳内シグナルがニューロンから、次のニューロンへと「グルタミ ン酸塩」という神経伝達物質を介して伝わることを阻害する。この伝達が妨げられるとグルタミン酸の興奮性神 経毒性効果と呼ばれるものが減少する。しかし、残念ながら、メマンチンは、記憶の形成に非常に重要な神経伝 達物質も阻害する可能性があり、使用当初は認知機能が減弱することがある。 最も重要な事は、コリンエステラーゼ阻害剤もメマンチンもアルツハイマー病の根本原因を標的とするものでは ないので、病気の悪化を止めることもなければ、当然治しもしない。
さらに根本的な問題として、アルツハイマー病は単一の病気ではない。アルツハイマー病には、3 つのサブタイ プがあり、それぞれ異なる生化学プロセスにより引き起こされるので、各々、別の治療が必要になってきます。 また、APOE4 と呼ばれる遺伝子多型をもつ非常に特殊なグループがいますが、APOE4 は、最も強力なア ルツハイマー病の危険因子として知られています。 アルツハイマー病は、脳の拡張シナプスネットワークに本来携わっている健全な退縮プログラムから生じていま す。正常な脳の清掃プログラムがおかしくなっているというわけなのです。 脳の老化が始まる 40 歳を超えたすべての人に有効なプログラムが必要になってきます。
出典・引用:アルツハイマー病-真実と終焉 デール・ブレデセン 著