老化の三大要因の最後は「炎症」です。
炎症は、発赤(炎症の起きている組織が赤くなる)、発熱(体温の上昇または局所の熱感)、腫脹(炎症部位が腫れる)、
疼痛(痛みを生じる)などの症状が現れてきますが、その経過によって「急性炎症」と「慢性炎症」に分けられます。
急性炎症は、経過が速やかで早期に終息しますが、慢性炎症は、急性炎症のように症状が現れず、くすぶって、炎症が
慢性化し、長期間にわたって辛い症状が続きます。
炎症が起こる理由は、内側、外側から与えられるストレスに対しての「生体防御反応」です。また、生体防御には、
ウイルスや細菌などが体内に侵入するのを防ぐという仕組みと、体内に侵入した異物を排除する「免疫」という
仕組みがあります。
この免疫が、私たちの体に害を与えない物質に対しても、異物と判断して、過剰に反応して攻撃してしまい、
マイナスの症状を引き起こすのが「アレルギー」です。本来は、体を守るはずの防御反応が、自分自身を
傷つける「アレルギー反応」に変わってしまいます。
炎症は、加齢とともに、起こりやすくなります。しかも、体のあちこちで起こるようになるので、
炎症が起これば、体の機能低下につながり、さらに、老化を促進しまいます。
もともと、老化によって免疫機能は、低下するので、菌などの異物の侵入がなくても、炎症は
起こりやすくなるのです。
炎症を火事に例えるなら、いつも、体のあちこちで火事が起きているというわけです。
絶えず消火活動を行われているので、体はどんどんダメージを受けていきます。
また、加齢にともない、凝固系が活性化しやすくなります。これは、血液を固めるもとになるような
もので、炎症を起こしやすく、また、その炎症を起こしやすくする細胞をさらに促進させ、老化した
細胞そのものから、「炎症促進因子」を分泌します。その炎症の原因因子を「炎症性サイトカイン」と
言います。
サイトカインとは、主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質のことで、細胞間の情報伝達を担います。
炎症性サイトカインとは、炎症反応を促進する働きを持つサイトカインです。
炎症が体の中の起きている火事ならば、炎症性サイトカインは、火の勢いをさらに強めます。
炎症を強めて、機能の障害を起こし細胞を壊します。
また、体内に炎症が起きているなら、腸内にも炎症が起きている可能性があります。
私たちの免疫力のおよそ70%が腸でつくられています。
食べ物は体外からの生体内外の物質であるため、免疫システムの攻撃の対象となりますが、
過敏な免疫反応を起こさないように、「経口免疫寛容」と言われる、腸管免疫の最も重要な働きに
よって成り立っています。
腸の粘膜が荒れてくると、アレルギーも起こりやすく、血糖値も高くなってきます。
小腸の内部には、輪状ヒダが伸びていて、その表面全体には腸絨毛という無数の突起が存在しています。
さらに、その表面には、極小の突起があります。それを微絨毛と言います。微絨毛の表面には、様々な
消化酵素があり、栄養素を分解処理して、細胞内に栄養を吸収しています。
微絨毛は、絨毛突起の表面を覆う上皮細胞の細胞膜で出来ていますが、この微絨毛の間にある杯細胞は、
糖タンパク質で出来ているムチンという粘液を分泌し、腸粘膜を粘液で覆い、腸内細菌の侵入を防いでいます。
腸で、多くの免疫の働きを担っているのが、小腸の下部、回腸に多く存在している「パイエル板」です。
バイエル板の部分の上皮には、M細胞という特殊な形をした細胞があり、抗原(細菌やウイルスなど)を
パイエル板へと誘導し、次に樹状細胞という免疫細胞が取り込み、体内で分解し、バラバラにして、
ヘルパーT細胞に抗原として提示します。ヘルパーT細胞から提示を受けたB細胞は、抗体を作る細胞へと
変化し、IgA(免疫グロブリンA)抗体を作り出し、病原菌の体内への侵入を防ぎ、細菌の毒素を中和します。
また、大腸では、100兆個以上もの腸内細菌が存在し、種類ごとに「腸内フローラ」を作っています。
腸内細菌は、小腸で吸収されなかった水分と未消化物(食物繊維など)を分解し、
短鎖脂肪酸や有機酸などの代謝物を作り出し、それが腸管上皮細胞から吸収されて、血液に取り込まれ、
全身に送られます。腸内環境が崩れると、免疫抑制細胞の一つである制御性T細胞が減少し、
アレルギー症状や自己免疫疾患などが生じてきます。
本来、体を守るべき免疫システムが消化管を攻撃してしまう、腸の炎症性疾患には、
潰瘍性大腸炎やクローン病があります。潰瘍性大腸炎では、大腸のみが侵され、
クローン病では、小腸や大腸のほか、消化管のさまざまな場所が侵されます。
そして、最近では、「リーキーガット」(漏れやすい腸)という症状が起こっています。
不規則な生活や、慢性的なストレス、過度の飲酒、抗生物質などの医薬品の服用、
加工食品に含まれる添加物、化学物質などを摂取することで、腸のバリア機能が低下し、
細胞間に隙間が出来て、本来、腸を透過しない未消化物や、タンパク質、細菌やウイルス、
毒素などの異物などが、腸管からすり抜けて、体内に入ってしまい、それが血液循環にのって、
体内の様々な部位に蓄積します。
また、リーキーガットの原因として、小麦に含まれているタンパク質である「グルテン」が考えられ
ています。グルテンは、小麦粉に含まれる「グルテニン」と「グリアジン」という2種類のタンパク質が
絡み合って出来たものですが、その中の、グリアジンが引き金になって、ゾヌリンというタンパク質が
過剰に分泌され、腸のバリア機能が低下し、腸壁を覆っている細胞の密着結合を壊し、必要のない
タンパク質が血液に入り込み、炎症を引き起こすのです。
しかも、グルテンは、パンだけではありません。パスタ、ラーメン、うどん、天ぷらやフライの衣、
ケーキやお菓子などに使われており、また、醤油などの調味料や乳化剤や増粘剤といった添加物、
ウインナーやハムなど、加工肉のつなぎとしても使われています。
リーキーガットは、頭痛、肩こり、不眠、眠気、だるさ、花粉症、メンタルの不調などの
症状がみられます。
腸管では無害だったものが、体内に運ばれることによって、外来の異物と認識されて抗体がつくられ、
食物へのアレルギー反応が起こります。また、免疫系から外来の異物として攻撃を受けることにより、
そこに炎症が起こり、自己免疫疾患やアレルギー、感染症などを発症し慢性化すると、炎症も慢性的に
続きます。
炎症は全身に起きます。アルツハイマーや、パーキンソン病、心臓病や肥満、糖尿病、アレルギー、
がん、関節リウマチ、自閉症、慢性疲労症候群なども、炎症と関連があると考えられます。
また、認知症と炎症が関わっていることもわかってきました。
認知症の人と健常者の炎症性サイトカインの量を比べると、認知機能の障害の重症度も高い人は、
炎症性サイトカインの量が多く、重症度と炎症性サイトカインの量は比例していました。
また、炎症が起きると、その炎症を抑えるために白血球から活性酸素が発生して、酸化が促進される
ので、体を守ろうと自らを傷つけて、それによって、老化を促進してしまうことになるのです。
毎日の食事の摂り方によって簡単に「炎症」は起きています。炎症を起こさない食事や日常生活を
心がけていきましょう。
「ボケない人の最強の食事術」(青春出版社/今野裕之 著)参照