高齢者のための音楽療法の導入の目的
1)認知症の予防と改善
2)誤嚥性肺炎の防止
3)リンパ球依存の免疫力の向上
4)歯周病の予防と改善
認知症のタイプ
(1)脳血管性認知症:小さな梗塞を繰り返している。
このタイプで最も多いのは広範な梗塞・不全軟化。大脳深部の白質線維の連絡機能
が断たれることで認知症症状が出現。大脳の表面付近の梗塞に起因する例では、梗
塞巣の容積が100mm3を超えると認知症の発現頻度が増加。また海馬、視床、尾状核
など重要な脳構造に梗塞を生じると、それが限局性であっても高次脳機能障害をき
たします。
(2)アルツハイマー型認知症:老人斑というシミや神経細胞に変化が生じ、脳が萎縮
老人斑を構成するアミロイドβ(Aβ)が原因で起こります。Aβの切り出し、凝集に始まるプロセスに起因して神経原線維が変化し、さらに神経細胞死へと至ります。このAβ説に加え、神経原線維変化を構成するリン酸化されたタウ蛋白質にも原因があります。
(3)レビー小体型認知症
レビー小体という丸い形の蛋白質の塊ができる神経変性疾患(脳がやせる病気)で幻想や妄想が出現します。
(4)梅毒スピロヘータ、ウイルス、プリオンなどの感染性因子
認知症の症状
共通する症状は:
(1)記憶などの認知機能障害
記憶障害、つまり新しい情報を学習したり、以前に学習した情報を思い出したりする能力障害が基本となります。さらに失語(ことばの理解が不能)、失行(運動機能の障害)、失認(対象を認知できない)、実行機能(計画・遂行能力)の障害など。
(2)行動異常・精神異常
暴言・暴力、徘徊・行方不明、妄想などの問題が発生。こうした問題は数カ月から数年にわたって持続し、在宅介護ができなくなります。
分類・種類:
・18歳以降44歳までに発症する認知症を若年期認知症。
・45歳以降64歳で発症するものを初老期認知症。
三大認知症:アルツハイマー型認知症(約55%)、レビー小体型認知症(約15%)、
脳血管性認知症(約10%)
・原因による2つの分類:
A)
変性性認知症(アルツハイマー型、レビー小体型)-遺伝的要因、環境要素により神経細胞が消失します。
B)
脳血管性認知症-脳の血管の梗塞や出血により神経細胞が壊死します。
認知症の症状改善に音楽は役立つか?
(1)記憶などの認知機能障害
(2)行動異常・精神異常
↓
音楽療法の導入
↓
進行の遅延と症状改善
↓
健康寿命に貢献
音楽療法の期待される波及効果について ※は効果が期待できる
1)アルツハイマー型認知症
※アミロイドβ+タウ蛋白質の蓄積
※アセチルコリンの減少
※コルチゾールの増加
↓
神経細胞の脱落
↓
海馬と頭頂葉の委縮
↓
※血流の低下
↓
※認知症
2)レビー小体型認知症
※アセチルコリン+ドーパミンの減少
↓
脳幹部と大脳皮質にレビー小体
↓
※認知症
3)脳血管性認知症
※脳梗塞・脳出血
※くも膜下出血
↓
※前頭葉の血流阻害
↓
※認知症
音楽がもつ大きな3つの力
○発語が困難であっても交流しやすい 音楽の社会的働き
○クライエントは満足しやすい 音楽の心理的働き
○楽器の利用、発声は気持ちを発散しやすい 音楽の心理的・生理的働き
○身体を円滑に動かしやすい 音楽の生理的働き
○集団で実践する場合、社会性を得やすい 音楽の社会的働き
↓
心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに
向けて、音楽を意図的、計画的に医療施設等で使用することができます。
↓
医療現場等での音楽療法士の活躍・貢献
音楽療法を医療に活用する
- 音楽療法の基本
病む部位を診るのではなく、病む人全体を診る
- 分類
受動的音楽療法:音楽を聴覚情報として聴く
・生演奏、スピーカー:聴覚+全身細胞
・ヘッドホーンなど:聴覚のみ
能動的音楽療法:歌を唄う、楽器を演奏する
・聴覚+筋肉活動+口腔・呼吸機能
- 音楽療法の内容(五感レベル)
人間の五感 受動的音楽療法 能動的音楽療法
聴覚 + +
嗅覚 - -
視覚 -(+) +
味覚 - -
触覚 - +
↓ ↓
(音楽に聴き入る) (歌を唄う・楽器を演奏する)
*エクササイズ要素が入る
歌うという行為の医学的意味
(能動的音楽療法の影響)
(1)身体の生理的機能への影響:
・口腔機能の向上、呼吸機能の向上、
誤嚥下性肺炎の防止、内臓や自律神経の活性化
(2)人間関係への影響:
・コミュニケーションの促進、引きこもりの予防、鬱の予防、世代間の交流促進、地域文化の創出
※(3)認知理解への影響:
・記憶力・回想力・覚醒力の増加、連想力・発想力の向上
(4)癒し面への影響:
・感情や情緒の発散、安心感・充足感の増加、他者への共感力の向上
口腔ケアを向上させる音楽療法
(要介護者の死因のトップ:誤嚥下性肺炎)
それを予防のための音楽療法
理由:音楽は発音、発声、咀嚼、嚥下などの口腔機能を促進する。特に、能動的音楽療法
は大きな意味があります
方法・実践:歌を唄うという行為は、舌、頬、のど、顎、頸部の筋肉を動かすことに通じます。
期待・効果:摂食・嚥下に関与する咽頭部の筋肉活動を改善。その結果、誤嚥下性肺炎を予防できます。
(埼玉医科大学保健医療学部 和合治久 先生 講演より)