人間の腸内環境は、頑健性があり、外的な作用よって変化することを阻止する仕組みがあります。
今日は、お刺身、明日は野菜中心の食事にしたからといって、腸内フローラのバランスや細菌の種類は、それほど大きくは変わりません。
肉や魚もおもな栄養素はタンパク質です。タンパク質は胃で分解され、その分解物の多くは小腸で吸収されるため、大腸まではあまり届きません。
大腸まで届くのは、胃や小腸で消化吸収しきれなかった難消化性のものばかりです。
腸の中にはあらゆるものを分け隔てなく分解できる、多機能な腸内細菌たちが長い間棲みついています。
腸内細菌の種類やバランスや、棲む環境は、長期的に食べているものによって決まることが複数の研究で明らかになっています。
例えばベジタリアンなら、当然、野菜を分解する腸内細菌の棲み処になります。
一方、欧米の人達の腸内フローラは脂肪の多いものを摂取したときの腸内環境に適した腸内細菌が多く棲みついています。
脂肪分の多いものを食べると、胆汁などの分泌量も増加します。このような腸内環境の変化が棲みつける腸内細菌を選抜しているのだと考えられます。
現代の日本人の食生活は、複合的です。米も食べれば、パンも食べる、肉も食べれば、魚も食べる、野菜も味噌も乳製品も食べる。
だから、健康であれば、それぞれの食品の分解を得意とする腸内細菌がバランスよく棲んでいることになります。
日によって、腸内に届く物が微妙に違うので、何でも分解する能力のある雑食系の腸内細菌が大部分のスペースを奪って常在していて、残りのスペースは他の腸内細菌が小競り合いを重ねながら共存しています。
健康のために良い働きをしてくれる腸内細菌が好むものを食べて、腸に届けてあげれば、健康になれるでしょう。食生活の改善によって少しずつ腸内フローラのバランスを整えていくのが、オーソドックスな健康への道です。
腸を健康にする食べ物としては、海藻があげられます。海藻類の魅力は、不溶性と水溶性という両方の繊維が含まれていることです。
不溶性の食物繊維は、便をふかふかにします。水分を抱き込む性質があり、便の量を増やし、スムーズな排泄を促します。
一方、水溶性の食物繊維は、人間の消化酵素では分解されづらく、胃を通り、十二指腸や小腸を通り、大腸まで届きます。その結果、腸内細菌のエサになります。
腸内細菌は、食物繊維を発酵して、短鎖脂肪酸という体にいい成分をたくさん作ってくれます。
日本人の腸内にいる腸内細菌のバクテロイデス・プレビウスは海藻を分解する遺伝子を持っていることがわかりました。
ところが、外国人の腸内から見つかったバクテロイデス・プレビウスは、海藻を分解する遺伝子を持っていませんでした。
日本人の腸内には、たくさんの海藻が運ばれてくることが多く、バクテロイデス・プレビウスにとっては、腸内に定着するのに有利だったため、海藻を分解する遺伝子を外部から獲得し、自分のものにしたのです。
自分の好きな海藻を日常的に食べることで、腸内環境の改善には効果があるはずです。
参照:「お腹の調子がよくなる本」 福田 真嗣 著