農薬の一つである殺虫剤は、昆虫の神経系に作用し、死に至らせることを目的に作らせていますから、散布している人間も同様のダメージが及ぶはずだと危惧する人もいると思います。
その一方で、使用する量をセーブすれば安全性は十分に確保できるという考え方もあります。さて、現実はどうなのでしょうか?
ワインで有名なフランスボルド―で働く614人を対象に認知機能のテストを行ったところ、農薬に、直接さらされているグループの点数が最も低い傾向にあることがわかりました。
農薬にほとんどさらされていないグループに比べると、点数が低くなる可能性が実に2~5倍にも及んだのです。
農業にさらされる機会が多かった人ほど、将来的にアルツハイマーなどの認知症が進行する可能性を否定することは出来ません。
最近では、農薬とアルツハイマー病の因果関係も、実験を通じて指摘されるようになりましたし、発ガン性についても以前から取り沙汰されています。
それが現実にどこまで妥当であるか議論の余地があると思いますが、何しろ日本は、米国に次いで世界第2位の農薬使用大国です。
農薬を頭ごなしに拒絶するつもりはありませんが、農薬も化学肥料も、あるいは食品に使われている防腐剤なども、積もり積もっていけば体にどんな影響を与えるか、わかったものではありません。

食事の改善に取り組むのであれば、こうした薬の影響も意識しつつ、自然栽培された野菜や果物を摂るように心掛けるべきです。
農薬の問題が難しいのは、食べ物に付着した残留農薬が人体にどこまで、影響を与えるのか、なかなか評価しにくい点があるからです。
実際に農薬を使用している人であれば、神経系にダメージが及ぼすこともイメージ出来ますが、スーパーで売られている農薬や果物を見て農薬の問題を連想することは決して容易ではありません。

「体の声を聴く」という言い方をされることがありますが、本来、美味しいという感覚は数字では表せるものではありません。
自然に栽培されたもの、採れたてのものには、実際にそう感じさせる要素が多くありますが、それをプラセボと言ってしまうと、感覚は麻痺してしまいます。
そんな意味では、栄養成分だけで、食べ物を評価すること自体に無理があるとわかるでしょう。
しかし、頭でっかちに食の安全性を説き、食にこだわったり、甘いものは毒だと厳しく排除せずに、日常の食事をしっかり整えた上であれば、時には、体の欲求のままに食べてみることも悪いことではありません。
大切なことはバランスなのです。
これまでの栄養学では、栄養成分にスポットが当てられ、摂取することで、体にどんな作用を及ぼすかが論じられてきました。
炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルに分けられていた五大栄養素が、研究が進み、炭水化物が、糖質と食物繊維に分けられて捉えるようになり、消化されない食物繊維も栄養素の一つとして、認識されるようになりました。
また、それに加えて、植物に含まれる香り、苦み、色素などの成分も「ファイトケミカル」の名前で、栄養素の一つに数えられています。
ファイトケミカルは、他の栄養素と違って代謝には関与しませんが、活性酸素を取り除く抗酸化作用など生命活動に欠かせない働きが知られています。
赤ワインに含まれる「ポリフェノール」、お茶に含まれる「カテキン」、大豆に含まれるフラボノイドの一種のイソフラボンなどがその代表です。
同じ糖質であっても精製した糖質と未精製の糖質では、体に及ぼす作用が違ってきます。
脂質についても動物性の「脂」と植物性の「油」では性格が異なります。
特定の成分が体に良いかどうかが論じられている点では変わりありませんが、現実には、どの病気にどのような栄養素がどれだけ必要なのか、何を摂りすぎてはいけないか、まして、高齢になれば、なるほど病気も増えてきます。
個々の栄養成分をつなぎ合わせたところで、それが、ひとつの食品、ひとつの食事とイコールになることはありません。

そこでは、とらえきれない要素も含め、私たちは食事全体から、様々なものを吸収し、体を養っています。
だからこそ、個々の成分にばかりこだわるのではなく、食事のパターンそのものを考察することが必要になってきます。
参照:「医者が教える長生きのコツ」 佐古田三郎