食養生の基本として、植物からのメッセージを感じとることは大切です。食事のとり方で、大事なのは栄養成分の背景にある部分。食べ物が自然とつながっていることを忘れ、食品としての機能性ばかりを考えると、食養生は難しくなります。こうした視点から、今、注目したいのが微生物との関わりです。
・食物繊維が「腸に優しい食事」のバロメーター
食物繊維は、植物(野菜、果物、海藻)に含まれる難消化成分にあたり、消化酵素で分解されないまま大腸へと
運ばれることで、ぜん動運動(食べカスを便として排泄させていく腸の動き)を動かしたり、腸内細菌のエサになっています。

忙しい毎日が続き、食事の内容にあまり気を配れなくなると、どうしても食事パターンが似通ってきます。ご飯や味噌汁の代わりに、サンドイッチ、菓子パン、ハンバーガー、ラーメン、揚げ物など、糖質や動物性脂肪などの摂取が増えてしまいますが、問題はその影響が腸内細菌にも及ぶことです。単調な食事によって、そうした食べ物が好きな菌ばかりが腸内で増えてしまうのです。

通常、栄養バランスの偏りが問題にされますが、同時に、腸内のバランスも偏ってしまうのです。ここでカギになるのは「自然」。食事に関して言えば、「多様性のあるものを食べる」ことです。食生活が単調になることを避け、四季折々、様々な食材をとっていくと、結果として食物繊維の摂取量が増え、腸の健康状態も整ってきます。

・「体にいいもの」にはマイナスもある。
食事のパターンが単調になってくると、食と健康のバランスが保ちにくくなり、その分、病気のリスクも増大します。例えば、肉類は良質のタンパク源と言われていますが、だからといって肉ばかり食べていたらどうなるでしょうか?肉類には食物繊維が含まれていませんから、野菜をしっかりとれていないと便秘の原因になりますし、動物性脂肪のとりすぎは動脈硬化やアルツハイマー病などのリスクを高めてしまうことも指摘されています。
精製した糖質のとりすぎは食後の血糖値を上げ、糖尿病のリスクを高めてしまうため、最近では、糖質制限制粗食を実践する人も増えてきました。ただ、糖質の摂取量を極端に制限していけば、肉類や油類の摂取が相対的に増えます。食後高血糖を防止するなどのメリットはありますが、体全体を考えれば、病気のリスクが増えてしまうことになるかもしれません。

私たちは、からだに良いと言われるものを求めがちですが、どんな食べ物であっても、体に良くない面も何かしら含まれています。良い部分が作用して体調が良くなることもあるでしょうが、その効果が長く続くかどうかはわかりません。まして、食事のバランスを考えず、毎日同じものを食べていたら病気のリスクはどんどん増していくでしょう。

食事を成分やカロリーでとらえるのではなく、生活の一部、自然の営みの一部としてとらえ、なるべくそのリズムに従って、その時にその土地で生産されるものを意識し、取り入れていくことが大切です。忙しい日常の中で完全には難しいと思いますが、食品の機能性ばかり重視して、何が足りない、何が過剰だと、足し算・引き算ばかり行なっていると、辻褄の合わないことが必ず現れてきます。食べ物が、もとは生き物であり、その生命をいただいているという当たり前の事実が見失われてしまい、食卓に豊かさを感じることも減っていくでしょう。

微生物との関わりという点では、温暖多湿な気候風土の影響もあって、日本の独壇場と言ってもいいかもしれません。発酵食品というとヨーグルトを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、日本では味噌、醤油、みりん、酢、鰹節など主要な調味料が発酵によって成り立っているほか、納豆、ぬか漬けなどその種類も豊富です。
鮒鮨、くさや、松前漬け、しょっつる(魚醤)など各地に伝わる発酵食品もありますし、米味噌、麦味噌、豆味噌など味噌も地方ごとに特徴があります。塩麹が人気を集めたように、味噌や甘酒の原料として使われる麹や酒粕などを調理に用いることも少なくないでしょう。

・大事なのは「多様な菌と共生する」こと
ただ、戦後70年あまりの歴史の中で、こうした伝統的な発酵食は少しずつ消費が減ってきていることは周知の事実です。しかも、生産効率を重視することで、保存料などの添加物を含んだ発酵度の低い食品が多く出回るようになりました。その代わりに消費が増えたのが、ヨーグルトのような動物性発酵食品です。ヨーグルトの摂取が増えたのだから発酵食の摂取は相対的に減っていないと思うかもしれませんが、ヨーグルトは特許の関係もあり、1~2種類の乳酸菌(ビフィズス菌)しか入れることができません。
R1、ガセリ菌、R–073など、乳酸菌の種類によって様々な健康効果が確認されるようになりましたが、そこで対象になるのは特定の菌のみです。腸内細菌の膨大な数と種類を考えれば、そこに多様性は感じられないでしょう。
(乳酸菌の種類) (効果)
R1・・・ インフルエンザ予防
ガセリ・・・ うつの改善に効果
ビフィズス菌・・・ ガン免疫療法に寄与
R–073・・・ 自己免疫疾患の緩和

多様な菌と共生することが腸の健康によっては何よりも重要なのです。多様な菌とつきあっていくには、
菌のエサになる様々な野菜、果物、海藻を食事の中に取り入れていくことが大事になります。

発酵食品を使った献立としては、やはり、味噌汁を常食していくことがおすすめです。味噌は、大豆を蒸してつぶし、米、麦、大豆などからつくった麹と塩を混ぜて発酵させていきます。麹をつくる際に使う麹菌も、発酵の過程で加わる乳酸菌も、腸の中に棲んでいる菌ではありません。ですから、摂取したこれらの菌が腸に届いて共生を始めるわけではなく、死骸も含め菌の成分そのものが腸に作用するのでしょう。


・発酵食品の賢いとり方とは?
乳酸菌やビフィズス菌というとこれまで「生きたまま腸に届く」ことが重視されてきた感がありますが、たった1種類の菌が腸まで運ばれ、多少増えたところで大勢に影響があるとは思えません。
最近では、免疫分野の研究が進むことで、菌の成分(菌体成分)が腸内の免疫機能を活性化させることがわかってきました。味噌汁に含まれる麹菌や乳酸菌は加熱する過程で死滅していますが、死んだ菌でも効果は変わらないということです。おまけに、具にたくさんの野菜、海藻を加えれば、そこに含まれる食物繊維が菌たちのエサになり、増殖をうながします。取り込んだ菌による免疫活性作用と相まって、腸の働きを高めていけるでしょう。

麹菌の秘めたる働きにも注目です。麹菌は菌という言葉がついていますが、カビの仲間に分類できます。生き物として菌とはまったく違いますから、コミュニケーションの仕方も違うでしょう。研究が進めば、体へのまた違った作用がわかるかもしれません。
引用 「佐古田式養生で120歳まで生きる ~ する・しない健康法」 佐古田 三郎 著